「陸上を文化に」――元日本代表スプリンター 菅野優太さんの次の道

元日本代表のスプリンター 菅野優太さんを突き動かす原動力は、「陸上文化を根付かせたい」という思いだ。現役生活の引退後に菅野さんを待ち受けていたのは、「陸上競技に打ち込んできた人生」からのリスタート。陸上に対する思いを形にしている最中だ。
「田舎では水と空気とスポーツは無料」――。そんな認識が一般的である中、生まれ育った千葉県成田市内の小学校や公園で、40人以上の子どもにかけっこを教えている。また東日本大震災の復興支援や陸上競技のイベントにも取り組み、今日も子供たちとグラウンドを駆け抜ける。
菅野さんは、スクールに参加する子どもの親との連絡に無料コラボレーションツール「サイボウズLive」を使っている。iPhoneを使い、スクールの予定や走る子どもの写真を共有する。ほぼ全員の両親がモバイル端末を使い、簡単にスクールの情報共有をしている。陸上競技の普及に懸ける菅野さんのセカンドキャリアと、それを実現する情報共有について取材した。
現役引退後の”セカンドキャリア”の難しさ

――日本代表のスプリンターとして陸上競技に打ち込んでいらっしゃった菅野さんの現役時代、そして引退後の取り組みを教えてください。
菅野:これまで中高大と陸上部に所属し、「日本一になりたい」という一心で短距離走に懸けてきた人生でした。2003年には100メートルの日本ランキングの第2位になったほか、陸上競技の100/200メートル、4×100メートルリレーの日本代表として選手生活をまっとうできたと思います。
引退した2008年以降も陸上にかかわり続けたくて、教師としてクラブを指導していました。28歳まで陸上一筋で生きてきた自分が果たして、引退後のセカンドキャリアを切り開けるのか。毎日が勝負でした。
思えば現役時代に成績を残す人は賛辞を集め、自分を「すごい人だ」と勘違いしてしまいがちです。でも、陸上のキャリアを生かして引退後も生きていける選手はほんの一握りでしかなくて。打ち込んできた陸上とまったく別の仕事に就く人も多いですし、僕自身もそうでした。でもそれだけだと「さみしいな」って思って。
――超一流の選手でも引退後の生活が保証されない。選手は、陸上競技という世界の厳しさを実感するのですね。
菅野:そうですね。僕の場合は教師としての指導経験を経て、より密接に陸上にかかわりたくなりました。だから、まずは僕一人で子ども向けにかけっこスクールを開いてみようと。100人を呼ぶ無料イベントを企画しました。
でも、そこで実感したのは「現実の厳しさ」です。100人が集まりイベントは成功でしたが、次に有料スクールを開講した時に来てくれたのはたったの5人でした。日本代表の5選手が千葉国体を盛り上げる有料イベントもやりましたが、来場者は200人ほどでした。
「陸上の日本チャンピオン」に対する商品価値や広告媒体価値の低さを強く感じました。こども向けのイベントは「社会的に良い取り組み」と認識されやすいですが、それが「陸上競技」の底上げには直結しにくく、悔しかったですね。
――日本代表になられた方でも、セカンドキャリアの厳しさに直面するのですね。
菅野:スポーツ選手は、人生を掛けて血のにじむような努力をします。僕も28年間ひたすらオリンピックを目指し、陸上競技に打ち込みました。でも引退後にその価値を世間に認めてもらうのは、思った以上に難しい。
引退した当時はプライドもあっただけに、「陸上を取ったら何も残らない自分」にがっかりしてしまって……。引退から今に至るまでを振り返ると、失敗経験がほとんどですよ。
陸上を、文化に。
――菅野さんご自身が、教師生活やイベント運営で引退した陸上選手の生活の厳しさを経験したんですね。

菅野:そうですね。こうした経験もあり「スポーツを、陸上を文化にしたい」という思いが一層強くなりました。
陸上を文化にするとは、陸上競技に打ち込んできた人が、引退後も陸上に関する分野で仕事ができる――そんな循環を作ることだと思っています。
一流の選手でも、大学卒業後に実業団から声が掛からず、アルバイトをしながら陸上競技に打ち込む人はざらにいます。でも、アルバイトをしている間は練習ができませんし、得られるお金は「時給」でしかありません。
もし、陸上というスキルで仕事をして「能力給」という対価が得られれば、「陸上で稼いだ」というお金の重みを感じられるはずです。こんな仕組みがあれば、スポーツに夢を持ち、陸上を楽しむ人がもっと増えると思うんです。
――その思いが、今取り組んでいる成田でのかけっこスクールの運営に現れているのですね。
菅野:僕が育った千葉県の成田には「かけっこ」を教えるクラブはありません。僕も中高大は学校の陸上部に所属していましたし、専門のスクールには通っていませんでした。
かけっこ教室は東京以外にはほとんどないんですよ。あったとしても、その多くはNPOによる運営だったり、その地域の学校の先生によるボランティア運営だったりします。これが、陸上で食べられない理由の1つになっているんですよね。だからこそ、引退後は成田でかけっこのスクールを作りたいと思ったのです。
成田という地域でのスクール運営にこだわるのは陸上、つまり「かけっこ」にお金を払ってもらえる文化を作りたいから。誰でもできる「かけっこ」をわざわざお金を払って習いたいという人はなかなかいません。でもこのままだと文化にはならない。習い事の代表である「水泳」と同じくらい「かけっこ」の地位を高めたいんですよね。
――かけっこ教室ではどんなことを教えているのですか?
菅野:今は40人の子どもがかけっこ教室に参加しています。教えるのは、僕が現役時代にやってきたトレーニングを小学生向けにしたものです。ミニハードルを使った膝の上げ下ろしや坂ダッシュ、リレーやタイムトライアルなど。毎週違ったトレーニングを実施しています。
ご両親が子どもにかけっこの習い事を勧めるのは、いくつか理由があるのかもしれません。最近は安全面から子どもが外で遊ぶ機会が減っていると感じますし、かけっこをプロに教わる機会はなかなかありません。プロの人と一緒にかけっこを学び、思い切り体を動かせることに価値を感じてもらっているのかもしれませんね。
一緒に走ったり、日本代表時代のジャージを着た子どもと写真を撮ったりすると、もう子どもたちの目の輝きがすごくて。2、3年ほどスクールを続けて、やっと手応えを感じられるようになったかな。

――その他陸上を啓蒙するイベントに多く出演されているとお聞きしました。
菅野:例えば、東日本大震災の復興支援の一環として、福島県の相馬市でスクールを開いています。「震災後にスポーツをすることは不謹慎では?」とも思いましたが、「アスリートとして自分ができるボランティアは一緒に走ること」という信念を信じて、ずっと続けています。
また為末大さんが設立した一般社団法人「アスリートソサエティ」に所属し、卓球やバレーのなど他競技の選手と一緒にスポーツを盛り上げたり、ユニセフからの依頼で岩手県中学総体に参加したり。「東京ストリート陸上」で丸の内を走り抜けたこともあります。
それまでの僕は為末(大)さんをはじめいろんな人に「行動力はあるけど、考え足らず」と言われていて。行動が先立つものの、思いを伝えるのは苦手でした。でも、さまざまな人と交わり、陸上にかかわることで視野が広がっていきました。
「自分のために」ではなく「陸上のために」生きる。そんな思いを持ってスクールやイベントに取り組んでいます。その積み重ねが「スポーツを文化にする」ことに必ずつながると思っているんです。

スマートフォンでスクールの日程共有。親御さんもすぐに使いこなせた

成田のかけっこスクールのグループトップ画面
――菅野さんはかけっこ教室の運営にサイボウズLiveをお使いいただいているのでしょうか?
菅野:はい。月に4回開催しているかけっこ教室の親御さんとサイボウズLiveのスケジュール機能(グループイベント)を使って、教室の予定を共有しています。
サイボウズLiveが便利なのは、繰り返し予定を「中止」した履歴も残せることです。かけっこ教室はその日の天気で延期になることもあります。「中止」と変更した当日の予定がカレンダー上では消えずに表示され続けるため、振り替え日程の連絡が簡単にできます。
かけっこ教室のようなスクール運営では、スケジュールを親御さんと共有し、変更があった場合はその変更点が分かることが大切です。そのためには、予定が「最初から登録されていなかったのか」、それとも「一度登録後キャンセルになったのか」を正しく伝える必要があります。幾つかスケジュール共有ソフトを使ったのですが、この要件を満たしたのはサイボウズLiveだけでした。
スケジュール確認後には「いいね!」を押してもらいます。連絡や予定変更が伝わっているかを確認するためです。「いいね!」が付いていない親御さんには、「メッセージ」機能を使って個別に連絡します。
サイボウズLiveを使い始めてから、「今月中止した1回分の講習をいつに振り替えますか?」と聞かれなくなりました(笑)。

中止にした予定も親御さんと共有でき、スケジュールの調整がスムーズに

スクールの予定も調整する際にはアンケート機能をフル活用
――確かにスクール運営では、スケジュールの変更を正確に伝えることが必須ですね。ほかに便利だと思う機能はありますか。
菅野:掲示板もよく使います。「忘れ物」掲示板を作り、子ども達の忘れ物の写真を掲示板に添付します。すると父兄からすぐにコメントがあり、持ち主が分かります。これはメーリングリストでは実現しないスピード感です。

掲示板では親御さん同士がスクールの連絡を取り合っている
こんなこともありました。学級閉鎖があった時に「スクールを開いてもいいのか?」と書き込んだところ、お母さん達がすぐに何件もコメントが届き、スクールの延期がすぐに決まりました。僕が掲示板を見ていない間に議論が進み、問題が解決してしまったのです。
今後は、スクールの風景やかけっこをする子どもの写真を掲示板で共有しようと思っています。それを見るのは親御さんと、遠方に住むおじいちゃんやおばあちゃん。スマートフォンや携帯端末からお孫さんの元気な写真が届けば、きっとうれしくなりますよね。サイボウズLiveならそんな使い方もきっとできます。
――菅野さんはスマートフォンからサイボウズLiveを使うことが多いのですか。また親御さんは難なく使いこなせているのでしょうか?
菅野:僕はスクールやイベントで日中はほぼ外出しているので、iPhoneアプリ「サイボウズLive for iPhone」を使っています。全体の9割以上の書き込みはiPhoneです。ほとんどの親御さんも、スマートフォンや携帯電話でサイボウズLiveを見ています。
サイボウズLiveを使って1年ほどになりますが、お母さん方に使い方を教えると、すぐに慣れて使ってもらえました。「誰でも使える簡単なツール」って、ありそうで実はあまりなくて。サイボウズLiveは画面も使い方もシンプルなので、抵抗なく使えるのでしょう。
それまで使っていたメーリングリストでは、誰がメールを確認したかが分からず、一方的に事務連絡を送るだけになっていました。スクール運営ではコミュニケーションが大事で、情報が一方通行になってはいけません。サイボウズLiveがないと、40人もの子どものご家族との円滑なコミュニケーションはきっとできなかったと思います。
陸上ってすごいから、もっと見てほしい
――ありがとうございました。最後に菅野さんの今後の抱負をお聞かせ下さい。
菅野:現役の時、陸上は僕にとって「最強の武器」でした。けど引退後の今は「1つの武器」でしかないんです。多くの人と会って、いろんな考えや価値観に触れることで、陸上を「競争」ではなく「文化」にしたいと強く思いました。文化とは、引退後も陸上のスキルを使って生活でき、夢を持って陸上に取り組めるようになる仕組みだと感じています。
走る事は全てのスポーツの基本です。かけっこが習い事ランキング1位になるような、そんな日を夢見て活動しています。将来は「かけっこの会社」ができたらいいな。そして、陸上の日本選手権や大会のスタンドが、サッカーや野球に負けないくらいいっぱいになる日が来ることを望んでいます。

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